「高齢者は環境が変わると鬱になりやすい、ボケやすい」ということをよく聞きます。
確かに、年寄りが長年住み慣れた実家を離れ、新しい場所で新しい生活を始めることには大きなストレス・不安が伴うものだろうと容易に想像ができます。
実家の親を「呼び寄せ近居」するときに、子供世代が心配することの一つが「環境変化によって生じる親への影響」です。
この記事では、「呼び寄せ近居」を始めた我が家の両親に起きた変化をご紹介します。親の身に起こるかもしれない影響を事前に知っておくことで、その対策に活かしてください。
なお、我が家の経験から得た対策については「実家の親の”呼び寄せ近居” を成功させる7つの秘訣」にまとめました。そちらもあわせてご覧ください。
実家を離れることについて、最初は両親2人とも後ろ向きだったよね。引っ越した後も、最初の半年くらいは色々なことが起きて大変だった
でも「実家の親の”呼び寄せ近居” を成功させる7つの秘訣」に書いたことを地道に続けて、今では順調に行ってるように思うわ
そうだね。その記事の中でも少しふれたけど、「親に起きた変化」について、もう少し詳しくまとめておくよ
当時は大変だったよね。思いもかけないようなことがたくさん起きたから、これから「呼び寄せ近居」をしようとする人の参考になると思うよ
目次
父親に起きた「マイナス」の変化
「“親CoCo”について」で紹介した通り、パパさんの父親は元サラリーマンで、当時79歳でした。身長181cmと大柄ですがパーキンソン病で歩くのも難しい状態です。
新しい場所で新しい生活を送り始めてから起きた、父親の変化です。
幻視を見るようになってきた
引越してから3カ月ほど過ぎたある日のことです。夜中に大きな物音で起きた母親が父親の部屋に行ってみると、そこには布団もかけずにうっすらと目を開けたままの父親の姿がありました。
そして、「ネズミが天井から落ちてきて背中に入ってきた」「今布団の中にいる」と言ったのです。
母親が布団の中を確認してもネズミはいません。しかし、父親は手に持ったスリッパで布団の中のネズミを叩いていたようです。
それからというもの父親は突然変なことを言うようになりました。
・窓の外を男の人が通って行った
・バケツを持ったおばあさんんがじっと部屋の中を見ている
・白いスカートをはいたたくさんの老女が、ランプを持って帰っていく
・向いのマンションからカメラを向けてこっちを見ている人がいる
・職人がベランダにある植木をを切って、どこかに持って行ってしまった(元々ベランダに植木はありません)
・部屋のベッドの前に犬がいる
・仏壇の上に老女がいる
・雲がすごいスピードで流れていく(雲一面の曇天でした)
はじめは心霊現象かと思いゾッとしました。しかし、夜だけではなく昼間も同じようなことを言い出しました。そして、我々誰一人として父親が見えているものは見えませんでした。
かかりつけの脳神経内科の先生に相談したところ、それは「レビー小体型認知症」の症状だと言われました。「幻視」は、パーキンソン病の患者によく現れる症状で仕方がないものだそうです。
「心霊現象」ではないことに少しホッとしました。でも、ついに認知症の症状が出てしまいました
自分の居場所が分からないことがあった
これは引っ越してから2週間ほど過ぎてから起き始めたことです。
「ここはどこだ?」と突然言うことが何度かありました。そのたび母親が「実家から引っ越した新しい家でしょ」と答えていたそうです。
新しい家に慣れてなかったからか、家の中で場所が分からなくなることも度々あったそうです。
・部屋からトイレへの行き方が分からなくなった
・トイレから自分の部屋に戻れなくなり迷った
父親に起きた「プラス」の変化
少し前向きにデイサービスに行くようになった
父親は大学卒業後、東京の会社で営業の仕事をしてきました。国内出張が多かったせいか、グルメや観光の話題は豊富な人でした。
新しく通い始めたデイサービスは比較的東京に近いこともあり、通ってくる老人は東京でサラリーマンをしていた人も多いようです。そのため、話題が合うようで、実家から通っていたデイサービスよりも前向きに行くようになりました。
実家は東京から離れた田舎でした。以前通っていたデイサービスには農家や自営業の人が多く、話題が少し合わなかったみたいです
外出を以前ほど嫌がらなくなった
呼び寄せ近居を始めてから、父親は外出を以前ほど嫌がらなくなりました。
実家の周りは坂が多い上に、駅まで歩いて10分以上かかりました。田舎街ですから駅前でさえあまり栄えておらず、どこかに連れて行こうとすると車での移動となります。
そういう事情もあり、車に乗せ連れ出そうとすると「できないよー」と必ずだだをこねていました。
しかし、新しい街は道も平たんで、すぐ近くにショッピングモールもあります。外食や買い物する店もいくつもあります。そのためか、外出を以前よりも嫌がらなくなりました。
父親を外に連れ出し刺激を与えることで、ボケ防止に役立っています。
近居してから父親の車椅子を押すのは私の役目になりました。母親が押すより安心感があるため外出を嫌がらなくなった、という面もあるかもしれません
母親に起きた「マイナス」の変化
「“親CoCo”について」にある通り、パパさんの母親は元専業主婦で3人の子供を育てました。79歳という年の割には元気で、何もできなくなった父親介護と共に、家のことも1人でやっていました。
新しい場所で新しい生活を送り始めてから起きた、母親の変化です。
新しい生活の不安で寝れない日が続いた
① 賃貸住宅の家賃支払い
新しい暮らしを始めてすぐに、母親は寝れない日が続きました。しかし、それを知ったのは1カ月ほど過ぎたころです。私に言うと怒られると思っていたそうです。
原因はいくつもありましたが、その一つが「賃貸住宅の家賃」でした。
最終的に借りた物件は、母親が想定したより高めのものでした。父親の介護や利便性を考えての決断です。しかし、その賃貸料が母親の悩みとなりました。
実家暮らししかしたことのない母親にとって、「毎月人に対して賃料を支払う」ということはかなりのストレスだったようです。
どんどん貯金がなくなっていく感じが「恐怖」だったようです。
「恐怖」を減らすために、親の貯金、年金の収入、家賃支出、生活費支出などをエクセルにまとめ、家庭の収支がこの先どうなるかを見えるようにしました
お父さんの体の具合に応じて、母親の生活をこの先どう想定しているかを見せてあげたことも安心につながったわ
② 空き家となった実家のこと
誰も住まなくなった実家のことも悩みの原因の一つでした。新しい生活が落ち着いたら「売却」することで了解していましたが、自分の家に誰かが住むことを想像してストレスを感じていました。
「父親と2人の生活が不安」と母親から言ってきたから実現させた「呼び寄せ近居」なのに、いざ引っ越したら「実家に帰りたい」なんて言い出すから本当に頭にきたよ
苦労して建てた自分たちの城を手放すのはやっぱり辛いものよ。「ローン返済がやっと終わってから、まだ10年位しか住んでいない」って寂しそうに言ってた
③ これまでにない生活音
実家では感じることのなかった生活音にも悩んでいました。
その一つがマンションの24時間換気の音です。ベットに入ると、静かな部屋にかすかに聞こえる換気の音が気になって眠れないと言われました。
また、上の階の人が歩く音や、隣の部屋からたまに聞こえる衝撃音など。これまでに経験したことのない音にストレスを感じていました。
換気音が聞こえないように、母親の寝る部屋だけ通気口をビニールでふさいじゃいました
引っ越してきたときに両隣には挨拶に行ったけど、上の部屋にも挨拶しておくべきだったわね。下にどんな人が住んでるかを知ってるだけで、少しは気を付けてくれたかも
一時期 イライラが激しくなった
新しい家に住み始めてしばらくの間、母親の父親に対するイライラが増しました。これは父親と母親の距離が物理的に近くなったために起きたように思えました。
2階建ての実家には、空いた子供部屋も含めて、2人暮らしには広すぎるスペースがありました。父親が1階の部屋に寝て、母親は2階の部屋に寝ていました。そのため、母親は1人の時間を物理的に確保することができていました。
しかし、新しい家では2人の距離が大幅に縮まりました。何もできない父親はいつも母親を呼ぶようになり、母親は自由な時間が持てなくなりました。
それにより、母親にストレスがたまりイライラすることが増えていきました。
これも想定外の出来事でした。父親がデイサービスに行く回数を増やしたり、母親に電話やラインを頻繁にするように妹に頼みました。母親の自由な時間や愚痴を言える環境を増やすためです
最近は生活のリズムが整ってきたからか、お母さんのイライラも随分減ったわね。手を打たなかったら大変なことになってたかも
母親に起きた「プラス」の変化
毎日散歩をするようになった
母親は毎日1時間ほど散歩をするようになりました。新しい街なので目新しいということもありますが、実家の周りとは違い、坂がなく道路は平たんで、人の往来も多いということで安心して歩ける環境があるそうです。
買い物などで外出することが多くなった
実家にいる時は買い物が不便でした。スーパーに行くにも自転車が必要で、荷物を前かごに入れてふらつきながら買い物に行っていました。
新しい家は歩いて数分のところにショッピングモールがあります。食料品にかぎらず買い物に外出することが増えました。
以前より感謝を口にするようになった
実家にいる時は、よほど大きなことがなければ子供に頼るということはありませんでした。「子供に迷惑かけたくない、自分1人で何とかしよう」という気持ちが強かったのでしょう。
近居をはじめて数カ月たったころから、近くに住んでいるメリットを実感してくれたようです。何かあればすぐに連絡してくれて、やってもらったことに対して感謝を口にするようになりました。
「いつものお礼」だと言って、たまに夕食をごちそうしてくれたりするんだよね。結構こっちも助かってる
我が家の留守中に、愛犬の面倒を見てくれるのもありがたいわ
最後に
高齢者に限ったことではありあませんが、環境が変わるといろいろなことが起こります。特に歳をとった親の環境を変える時は、いろいろと考えて躊躇してしまいます。
しかし、「何を重視するのか」の優先順位がきちんと付いていれば、迷うことはありません。
我が家では、お互い行き来できる距離にいることで、お互いが安心できるようになりました。
そのためにしたことは次の2つだけです。
・問題が起きないように最善の準備をする
・何か問題が起きたら早急に対処する
親にとっても、自分たちにとっても「今日が人生で一番若い日」です。「高齢者は環境が変わると鬱になりやすい、ボケやすい」と悩む前に、最善の準備をすることをおすすめします。
親を呼び寄せてから、いろいろなことが起きて苦労したなぁ。特に父親に「幻視」が現れ時は、かなりのショックだったよ
ご両親が実家で住み続けてたとしても、おそらく「レビー小体型認知症」を発症してたと思うわ。そうなる前に呼び寄せることができて本当に良かったわよ