実家の親を「呼び寄せ近居」するためには通常、賃貸住宅を借りる必要があります。しかし、「実家の親を呼び寄せるための、賃貸物件を探すチェックポイント」に書いた通り、高齢者がが安心・安全に暮らせる設備を備え付けている賃貸物件を探すことは簡単ではありません。
そこで、自分で介護用具・用品をそろえることになりますが、できれば少ない負担で良い物をそろえたいものです。この記事では、賃貸物件で使える介護用品とそのそろえ方についてまとめました。
実家の玄関・廊下の壁・トイレ・お風呂には介護保険を使って手すりの取付工事をしたよね。住宅改修費用は介護保険で8割補助されるから助かったよ(所得に応じて補助割合は変わります)
確か、改修工事は原則一人一回までで、保険の対象は20万円までだったわね。当時はお母さんとケアマネジャーさんにまかせっきりだったからよく分からないけど
転居した場合、2回目の改修工事でも保険対象となるらしいよ。まあそもそも、賃貸物件の大家が工事を承諾してくれるか分からないけどね
工事が無理なら、自分たちで介護用品をそろえるしかないわね。でも、介護保険で購入・レンタルできるものにも制限があるんでしょ
自治体をまたぐ転居をした場合、介護保険でレンタルしていたものは全て返却して、転居先で新たに借り直さないとならないんだ。ということは、親にまかせっきりにしていた介護用品について、見直すいい機会でもあるよ
目次
介護保険で購入・レンタルできる介護用品
介護用品をそろえる時、まず最初にどんな介護用品が介護保険の対象となるかを知っておく必要があります。
介護保険は介護が必要な人にその費用を補助してくれる保険で、親が65歳になると被保険者としてサービスを使うことができる制度です。
利用の前には、住んでいる自治体(区市町村)に「要支援・要介護認定申請」を行い要介護認定を受けます。認定を受けたら、地域包括支援センターやケアマネージャーなどの介護のプロに相談しながら、使う介護用品を選ぶことができます。
介護用品の「購入」に補助が出るもの
介護保険を使って「購入」できるものは次の5種類に限定されます。費用の1割-3割(所得等により異なる)が自己負担となり、残りは保険で負担してもらえます。但し、保険で負担される上限は、年間10万円までとなっています(毎年4月から1年間)。
表1: 購入できる用品名 | 概要 | 要支援1,2 要介護1 | 要介護2-5 |
腰掛便座 | ポータブルトイレなど | 〇 | 〇 |
特殊尿器 | 自動排泄処理装置の 交換部品 | 〇 | 〇 |
入浴補助具 | 入浴用椅子・浴槽用手すり・ 入浴用介助ベルトなど | 〇 | 〇 |
簡易浴槽 | 〇 | 〇 | |
移動用リフト吊り具 | 〇 | 〇 |
但し、保険の対象となるのは、自治体指定の業者から購入した介護用品のみです。指定業者であっても、そこからインターネット経由で購入した場合は保険対象外になりますので注意が必要です。
介護用品の「レンタル」に補助が出るもの
介護保険を使って「レンタル」できるものは次の13種類に限られます。費用の1割-3割(所得等により異なる)が月額レンタル料として自己負担となり、残りは保険で負担してもらえます。但し、13種類の用品であっても、レンタルで保険対象となるのは「保険適用基準基準」を満たしている器具のみになります。
表2: レンタルできる用品名 | 概要 | 要支援1,2 要介護1 | 要介護2-5 |
手すり | 工事不要なもの | 〇 | 〇 |
スロープ | 工事不要なもの | 〇 | 〇 |
歩行器 | 固定型歩行器・四輪歩行車など (シルバーカーは対象外) | 〇 | 〇 |
歩行補助杖 | 松葉杖・多脚杖など (一脚杖やT字杖は対象外) | 〇 | 〇 |
自動排泄処理装置 | 本体のみ | ※ | ※ |
車椅子 | 電動車椅子も可 | × | 〇 |
車椅子付属品 | クッション・姿勢保持用品等 | × | 〇 |
介護用ベッド | 背上げ・脚上げ機能 高さ調整機能付のもの | × | 〇 |
介護用ベッド 付属品 | マットレス・サイドレール・ L字型ベッド柵など | × | 〇 |
床ずれ防止用具 | 静止型マットレス・エアマットレス・ ウォーターマットレスなど | × | 〇 |
体位変換器 | 起き上り補助装置・ 寝返り介助パッドなど | × | 〇 |
認知症老人 徘徊完治機器 | 認知症外出通報システム・ 離庄センサーなど | × | 〇 |
移動用リフト | 工事不要なもの | × | 〇 |
〇は保険対象、×は対象外、※ は要介護4,5のみ対象(但し、尿のみ自動吸引できるものは、要支援1.2及び要介護1-3でも対象)
ちなみに介護保険には、住宅改修費用を補助してくれる制度もあります。これは、介護用品の「購入」「レンタル」とは別になりますので、表1、表2には含まれていません。
介護用品を選ぶ時の注意点
1. ケアマネージャーなど専門家に相談する
介護保険を使うためには、まず「要支援・要介護認定申請」が必要です。認定作業の結果、「要支援」と判定された人は地域包括支援センター、「要介護」と判定された人はケアマネジャーが相談先になります。
介護用品を使う時には、まずはそれらの専門科に相談しましょう。医学的な面から相談が必要な場合は、かかりつけの医者にも相談します。
必要以上に介護用品を頼ってしまうと、身体機能がより衰えてしまい、これまでできていたことができなくなる恐れがあります。
父親は杖で歩けた時でも歩行器を使いたがったし、歩行器で歩ける今でも車椅子ばかり使いたがってる
お父さんは転倒することへの恐怖心が強くて、少しでも安全な方に頼りたがるのよね
そうすると筋力がどんどん落ちちゃって、歩けなくなるのが早まるだけなのになぁ
2. 介護用品は安全第一で選ぶ
歳をとると体の機能が衰えてきます。その衰えた機能を補うために介護用品を使います。そのため介護用品を使う人は、その用品に信頼を置いてすべてを任せるしかありません。そんな介護用品が安全でなかったら、大きな怪我などを引き起こしかねません。
そのため、用具を使い始める際は、地域包括支援センターやケアマネジャーと事前によく相談します。必要に応じて、福祉用具専門相談員や医師、看護師、理学療法士などのアドバイスも受けながら、適切な用具を選ぶことが求められています。
呼び寄せ近居時に我が家でそろえた介護用品
親を呼び寄せて「賃貸住宅」に住んでもらうことになりました。それを機に、これまで使っていた介護用品を見直し、これから送る暮らしの状況に合わせてそろえ直しました。
1. 歩行器
約6年前、父の歩行が杖では危なくなってきたため、歩行器を使うことになりました。当時のケアマネジャーに相談したところ、歩行器は介護保険で「レンタル」できるが、購入はできないとのことでした。
レンタル料金2,700円/月とあった歩行器をカタログから選びましたので、その2割の540円/月が自己負担です。その後、歩行器を60ヶ月(5年)レンタルしたので、支払った総額は32,400円となっていました。
その後、呼び寄せ近居で暮らす賃貸住宅でも、父親は歩行器を使う必要がありました。
介護保険の実施主体は各区市町村ですので、自治体をまたぐ引越しの場合は、借りていた歩行器を返却し、引越し先の自治体でレンタルしなおす必要があります。
そのタイミングで、購入とレンタルを比較しました。
アマゾンで購入した場合 (全額自己負担) | 介護保険でレンタルした場合 (2割自己負担) |
7,980円(税込) | 540円/月(税込) (定価2,700円/月) |
レンタルと同程度の歩行器がアマゾンで7,980円で購入で売られていました。レンタル約15カ月分の額で購入できる計算です。
歩行器はこれからも使い続けるものですので、我が家では購入することとしました。
その後、約1年が経ちますが、アマゾンで購入した歩行器で何の問題も不都合も起きていません。
2. 手すり
新しく借りた賃貸物件には風呂にも玄関にも室内にも手すりはついていませんでした。介護保険には、「居宅介護(介護予防)住宅改修費」という制度があり、住宅改修費用の補助を受けることができます。工事費用(上限20万円)の7-9割が補助(収入により割合変動)される制度です。
親が実家にいた当時は、その制度を使い玄関、トイレ、風呂、廊下に手すりの設置工事をしました。
しかし、呼び寄せ近居をする賃貸住宅ではそう簡単にはいきません。通常、賃貸住宅を改修工事する場合、大家と管理会社の承諾が必要です。工事が承諾されたとしても退去時には原状復帰が必要になります。
介護用品店に聞いてみたら、最近は工事の承諾を出してくれるケースが多いみたいよ
そう言ってたね。でも管理会社に聞いてみたら「壁や床に穴を空けた場合、退去時に張り替えて現状復帰してください」と言われたよ。それなりのコストがかかるよね
ちなみに、「居宅介護(介護予防)住宅改修費」は原則一人につき一回のみ利用が可能ですが、転居した場合は、転居先の住宅で改めて利用することができます。
トイレの手すり
表1 の通り、トイレの手すりは介護保険を使って購入できる5種類の用品には含まれません。しかし、「改修工事」とすれば、トイレの手すりは介護保険の「居宅介護(介護予防)住宅改修費」の補助対象になります。
とはいえ、改修工事の場合は、床や壁にビスで穴を空けることになります。そのため、大家や管理会社に工事の承諾を得る必要が出てきます。
もし、大家や管理会社から改修工事の承諾を取れたとしても、退去時には原状復帰のコストがかかってきます。
「居宅介護(介護予防)住宅改修費」で改修工事をした場合を見積ってみました。
介護保険で改修工事した場合 (2割自己負担) | 退去時 原状復帰代 (全額自己負担) |
11,000円 (定価55,000円) | 約30,000円 |
また、トイレ用の手すりの中には「工事不要な手すり」もあります。それらは表2にあるとおり、介護保険を使って「レンタル」することが可能です。
しかし、「工事不要なトイレの手すり」はアマゾンでも売られています。それぞれのコストを比較しました。
アマゾンで購入した場合 (全額自己負担) | 介護保険でレンタルした場合 (2割負担) |
9,150円(税込) | 660円/月(非課税) (定価3,300円/月) |
レンタル料金は3,300円/月ですので、その2割だと660円/月の自己負担です。アマゾンで購入した場合、レンタル約14カ月で元が取れます。
結局我が家では、トイレ用手すりはアマゾンで購入(9,150円)することにしました。その理由は次の通りです。
・父親の状態からして、この賃貸物件に長く住み続けることはないとみている
・退去時に、原状復帰代(壁等の張替えコスト)が発生するのはばからしい
・「工事不要な手すり」であれば、違う住宅に移った時にでも使える
トイレ用の手すりを購入する場合は、事前のサイズ確認がとても重要です
我が家のトイレは、サイドにウォシュレットの操作パネルのあるタイプだったから、パネルに手すりが当たってしまいました
手すりの下にレンガ型の発砲スチロールで下駄をはかせてそれに対応しました(写真参照)。
お父さんは筋力が弱ってるから、体重を支えられずに便座に勢いよく座ってしまうことがよくあったわ
それには、手すりの後ろ側にあるパイプ部分にクッションを付けて対応しました。トイレのタンクが割れないためです。パイプのない手すりをもともと選ぶ方が安心ですけど
お風呂の手すり
お風呂の手すりは衛生用品となるためレンタルはできず、「購入」のみ可能です。負担金額について、アマゾンで購入する場合と比較しました(パナソニック ユニットバス専用コンパクト130脚付の場合)。
アマゾンで購入した場合 (全額自己負担) | 介護保険で購入した場合 (2割自己負担) |
16,600円(税込) | 購入:6,600(定価33,000円) |
お風呂の手すりは、介護保険で購入した方が負担が少なくて済みます。
また、お風呂の手すりは特に安全性が求められます。安全性を確保する意味でも、ケアマネジャーを通して介護保険で購入することをおすすめします。
風呂の手すりを付ける時は事前のサイズ確認を慎重に行ってください。我が家のバスタブは微妙に傾斜がついていて、買った手すりを安定して取り付けることができませんでした
風呂の手すりを介護保険で購入する場合、介護用品店の人が風呂の形状に合うかを確認しに来てくれるらしいわ。介護保険を使って購入した方が負担が少ない上に安心ね
玄関・室内の手すり
我が家が借りた物件は、玄関に段差がないユニバーサルデザインだったため、玄関内まで車椅子で入り、すぐに歩行器に乗り換えることができました。そのため、玄関に手すりがなくても大丈夫と判断し手すりを設置しませんでした。
但し、ベットから起き上がるのが困難だったため、ベットの脇に手すりを付ける必要がありました。ちなみに室内の手すりも表2の通り、「工事不要な手すり」あれば介護保険を使って「レンタル」が可能です。
アマゾンで購入した場合 (全額自己負担) | 介護保険でレンタルがした場合 (2割自己負担) |
26,000円(税込) | 944円/月(税込) (定価4,720円/月) |
レンタル料金4,720円/月ですので、その2割だと944円/月の自己負担です。アマゾンで購入した場合、レンタル約28カ月で元が取れる計算です。
いろいろな場所で使える部屋用のてすりは、これからも使い続けることができると判断し、我が家ではアマゾンで購入することとしました。
3. 車椅子
車椅子についての詳細は「親の介護に使う車椅子はレンタルと購入どちらがおすすめ?」という記事をご覧ください。
記事に書きましたが、車椅子が必要となってからの8年は車椅子を介護保険でレンタルしていましたが、「呼び寄せ近居」を始めたタイミングで購入に切り替えました。
表2にある通り、車椅子は介護保険で「レンタル」できますが購入はできません。安全性が求められますが、これまで8年間、レンタル車椅子を使ってきた経験から、父親には購入した車椅子でも大丈夫と判断しました。その上、購入すれば母親が必要になった時、同じ車椅子を使うこともできます。
負担額を比較すると以下のようになります。
アマゾンで購入した場合 (全額自己負担) | 介護保険でレンタルした場合 (2割自己負担) |
22,720円(税込) | 600円/月(税込) (定価3,000円/月) |
レンタルと同程度の車いすがアマゾンでは22,720円で売られていました。レンタル38カ月(約3年)の金額で購入できる計算です。
その後、約1年が経ちますが、アマゾンで購入した車椅子で何の問題も不都合も起きていません。
最後に
我が家では転居したタイミングで、これまでレンタルしていた介護用品を返却し、これから使う介護用品を見直しました。
「賃貸物件」ということもありいくつかの制約もありました。しかし、情報を集め真剣に検討した結果、ほとんどの介護用品をアマゾンで購入することとしました。
長年介護用品を使ってきている我が家では、この先もレンタルするよりは購入してしまった方が経済的との判断です。
介護保険を使って介護用品をそろえられるのはありがたい話ですが、レンタルも長期に及んでくるとかなりの負担となります。
介護保険の実施主体は各区市町村であり、自治体をまたぐ転居の際には改めての手続きが必要になります。これは面倒くさいことでもありますが、介護用品を見直すいいタイミングでもあります。
親の「呼び寄せ近居」では、通常「賃貸物件」を使うことになるというのも、見直さなければならない大きな理由の一つです。
転居先では、新しいケアマネジャーが担当してくれます。使う介護用品や生活環境についても、新しいケアマネジャーがアドバイスしてくれます。
そのアドバイスを参考にしながら、賃貸物件に必要な介護用品をそろえてください。その場合は、介護保険利用だけでなく、アマゾン等での購入を含めた幅広い選択肢で決断することをおすすめします。